Toyohara Kunichika
国周(くにちか)は、ファン・ゴッホが浮世絵を買い集めていた時期にまだ活躍していた浮世絵師である。彼はおそらく国周の激しい色彩に魅かれたのであろう。その頃日本では人口の顔料が出回り、すでに色鮮やかだった浮世絵版画の色彩がより強烈になった。色遣いは鮮烈でも国周の版画は伝統に根ざしていた。彼の主題や構図は師である国貞と本質的には変わっていない。
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舞台裏
国周は歌舞伎座に情熱を捧げ、通い詰めていた。ここでは役者、舞台裏、そして上演中の様子が画面に収められている。歌舞伎座は彼にとって自分の庭のようなもので、それぞれの役者の決めのポーズ、特徴的な顔の表情、有名な場面を難なくとらえることができた。
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富裕層の世界
色彩豊かな装飾性ゆえに国周の役者絵に魅かれたファン・ゴッホだが、その背景に横たわるストーリーは緊迫感のあるものが多い。この作品に見られる役者の着物の柄の椀とお面に明示されている椀久(椀屋久右衛門)と面売りは「椀久道行」の登場人物である。椀久は全財産を遊女松山のために投げうち、親族に監禁されて精神に異常をきたした。